御所に呼ばれたティアとテルは、散々調べられた後、王座の間に呼ばれて待機させられた。天皇が玉座に座った時には数十の兵士に囲まれていた。
天皇の顔は白羽二重《しろはぶたえ》の帳《とばり》よって見る事が出来ない。
「兵は引け、そのような状態では話も出来ぬ」
「しかし陛下」
側近が駆け寄ったが、制して兵を引かせた。
「許せよ。お二人方、名をなんともうす」
「はっ!私は、陛下直属『海猿』棟梁長衛が一子『テル』と申します。この者は『ティナ』と申して商船で海を渡り、我が国に入りその際に友達となりました」
テルがティナの代わりに答える。
「あの棟梁、長衛の息子か?これは失礼な事をしたな。おぬし達の働きによって平和が保たれている。感謝するぞ」
「有難き幸。」
「その赤髪の異人は、どこからまいられた」
それはテルも知らない。テルはティナに小声で話した。
「ポートギースであります」
テルが代わりに答えた。すると天皇がぎこちないが異国の言葉で話し始めた。
「ポートギースは遠いなよく参られた」
「私は少々陰陽道をかじっている。それに宮廷内にいると趣味が読書で、色んな書物を読む。西方の国が献上してくる、美術品や機械時計より書物の方が面白い。異国の書物を読んでいるのだ」
ティナとテルの驚いた顔を見て、天皇は答える。
「西方の国々は言葉が違うが、よく似た言語を使っている。だから違う国の書物でも少しは読むことが出来る」
この方は凄いとティナは思った。ティナの住んでいたポルトギースの隣国オータンやブルツやイリアなどは言葉が似ていて、西方の国を回っても余り苦にならないのだ。
「ところで異人の少年ティナよ、これまで色んな国を回ったであろう。私にその話を聞かせてくれぬか?」
天皇は言うと、立ち上がり帳《とばり》を避けて二人の前に現れた。側近や兵士は慌てたが、それを制した。
「私が聖徳天皇である。よろしく頼む」
天皇は頭を下げ、二人の前に座った。二人はビックリして言葉が出なかった。テルにしてみれば、大変なことである。頭を畳につけて上げられない。天皇は神の子孫とされている。テルから見たら神が下りてきたようなものだ。しかしティナは天皇を見て、若いと思った。二十代前半だろうと思う青年である。
「テル頭を上げよ。私は神ではないのだから」
天皇は優しくつげた。テルは涙を流しながら頭を上げた。天皇は笑顔を見せて話し出した。
「ティナよ、私は世界がどのようなところか、この国がどのような位置にいるのかが知りたい。この狭い京で座して全国・世界を見るのでは無く、世界から見た目線で、この国を見ていきたいと思っておる。そして広い視野で国を治めたいのだ。聞かせてくれぬか?」
ティナは改めて天皇の凄さを知った。そして喜んで今までの冒険話、色んな国の事、住民の事、文化、伝統、楽しいことや、時には辛いこと、戦争の事などをはなした。天皇は時には笑い、時には涙を流して話を聞いた。テルも一緒に話を聞いた。
話は続き、夜も更けていった。
「もう遅くなってしまった。ティナありがとう。私の中で貴重な体験となった。礼をいうぞ。褒美を遣わすゆえ、今日は帰りなさい」
「褒美は入りません。私が陛下と話したこの『瞬間』が何よりの宝です。ありがとうございます」
ティナが答えた。話が終わり帰ろうとする頃、天皇が戻ってきた。
「待ちなさい。やはり私の気持ちとして褒美を遣わしたい」
天皇は一本の短剣をだした。
「これは天皇家により代々使わされた。宝剣である。陰陽道で『水』の呪術をかけている。テルよ、代々我が天皇家を支えてくれたお主に渡そう。『水』は全ての生命の源。そして水は変化して全ての物を断ち切る強い力がある。お主ならきっとこの宝剣の意味を分かってくれると思う。大事に使ってくれ」
「陛下!」
側近が諦めムードで止める。テルも拒んだが、天皇の意志の強さを知って受け取った。深々と頭を下げて受け取った。
「有難き幸せ。テルは死んでも陛下をお守り続けます」
天皇は笑いながらありがとうと答えた。
「陛下、将軍家に不穏な影があります。堺にも賊を集まり何やら企てております。『三種の神器』を狙う算段でしょう。お気を付けてください」
テルが深刻な顔をして天皇に告げた。
「知っておる」
「なら将軍家を処罰して下さい」
「将軍家は潰さぬ。いつの時代でも悪しき野望を持つものが現れる。それは天皇家も同じなのだ。どちらかが道を誤った時に、どちらかが制せなければならぬ。天皇家一極であれば独裁になりかねない。だから将軍家はいてもらわなければ困るのだよ」
天皇は優しく答えた。ティナ驚いた。どこの人間も権力を持つと自分の立場を守る事だけを考える。しかし天皇は次の世代、いや未来の国を思って組織しているのだ。天皇から見たら、将軍家などはシナリオの一部なのだ。
「それに三種の神器は簡単には手に入らぬ。それが神器たるゆえんだよ」
天皇は笑いながら答えた。それが何を意味しているのかは?この時は分からなかった。
帰り道、ティナとテルはまだ興奮が冷め遣らなかった。特にテルは天皇に宝剣を頂き、手が震えていた。テルにとっては神に等しい天皇と会って話をして、しかも宝剣まで頂いた。こんな夢のような事が現実に起こるとは思っても見なかったからだ。
「凄い方だったね。この国は凄いよ。こんな凄い王がいる『国』だから、隣の強国『シン』が攻めてこられないのかもしれない」
ティナに取ってもブラッド以来の感動である。
「陛下は太陽神の子孫なのだ、まさに私たち国民を太陽のように見守って下さっている」
「陛下にお目通りがかなったのもティナのお陰だよ。ありがとう」
テルは目を輝かせてお礼を言った。
そんな夜、『堺』の町の寺院で、一つの集会が始まっていた。賊の集会である。
「皆のもの、よく集まってくれた。全国各地から集まった者は約二千人を越えた」
堺に拠点を置く、賊の大棟梁「黒虎」である。後ろに副棟梁「赤虎」「青虎」が控えていた。
「我ら賊は、普段合間みえない。いや互いに争ってきた。しかし今度は違う。あの贅沢三昧している天皇家から国の宝『三種の神器』を奪い取る。俺たちが虐げられてきた恨みを思い出せ。将軍家の軍団など平和ボケした烏合の衆だ。やつらを皆殺しにして、天下を俺たちの騒乱の世にしようぞ!」
場内から歓声が登る、黒虎は自分の演説とその歓声に酔っていた。
その時だ、「何者!」と言って黒虎の後ろに控えていた赤虎が手に持っていた鉾を寺院の屋根に投げつけた。その後、屋根の上から人が倒れて落ちてきた。その胸には赤虎が投げ付けた鉾が刺さっていた。
「これは『山猿』です。棟梁!」青虎がいう。
「ふん!『山猿』か!天皇の犬め!」黒虎は山猿に近付き、自分の大刀を抜いて一刀両断した。山猿は真っ二つになり息絶えた。
「天皇など怖くもない。これからは俺たちの世だ。皆のもの剣を取れ」
黒虎の叫びと共に場内は高ぶり、剣を振りかざし歓声をあげた。
賊の中に紛れこんだ、劉《りゅう》は一部始終を見ていた。
「これはヤバイ事になるな。ブラッドに報告しなければ」
劉《りゅう》は呟いて寺院を後にした。
夜も吹け、興奮冷めやらなかったティナとテルは気持ちよさそうに眠りについている。
将軍・ブラッド・黒虎そして天皇の互いの思惑が駆け巡りつつ夜が更けていった。
その思惑が激突するのは、目前へと迫ってきていた。
次回「三種の神器」をお楽しみに
キャスト
ティナ…赤髪に黒い目を持つ少年、この物語の主人公
ブラッド…「赤毛のブラッド」として海軍・海賊に恐れられている。「ルシフェル」の船長
バージ…五人衆の一人。ブラッドの幼馴染。一等航海士として舵を任されている。最強の剣士
劉《りゅう》…五人衆の一人。コック長。武術の達人。その正体は、シン国の皇太子。
ヒューベリック…ドクター助手。白魔法・薬学の権威
テル…ジャンパー国 天皇直属の忍 ティナと友達になる。
聖徳天皇…ジャンパー国の天皇。後の代に人は「太陽天皇」と呼ぶ。
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